ステーブルコイン・暗号資産・電子決済手段・前払式支払手段、今さら聞けない それらの違いは?

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NewEconomy JP 1 month ago 242

ステーブルコイン「JPYC」にまつわるキーワードを解説

先日JPYC社が「資金移動業者」の登録を得たことを発表しました。それにより同社は国内で初となる日本円と1:1で連動するステーブルコイン「JPYC」を発行可能な資金移動業者となりました。それに際した報道や発表などで、さまざまな専門的なキーワードが使われています。今回の記事ではそんないくつかのキーワードについて解説します。

まず「JPYC」 のこれまでの経緯について説明した以下の文章を読んでみてください。

「JPYC」 は当初は「前払式支払手段」という形式で発行されていました。その後、資金決済法の改正で、「電子決済手段」が定義され、「JPYC」 は2025年秋にこれに基づき発行される予定です。「JPYC」 は「ステーブルコイン」とも呼ばれ、ブロックチェーン技術を用いていますが「暗号資産」ではありません。

さて、上記の説明には以下の用語が出てきました。

  • 前払式支払手段
  • 電子決済手段
  • ステーブルコイン
  • 暗号資産

あなたはこの4つについて、違いを説明できるでしょうか? もし難しいのなら、以下をさらに読み進めれば明確に理解できます。なお、本記事においては、わかりやすさを重視した簡易な解説を行います。そのため、法的に厳密な定義とは一部内容が異なります。また日本法をベースにした解説になるので、海外の定義とは異なることをご了承ください。

前払式支払手段とは?

前払式支払手段とは、その名の通り「前払い(プリペイド)」の支払手段です。プリペイドカードは典型的な前払式支払手段ですし、SUICAなど交通系ICカードも該当します。要は前払式支払手段とは「先にお金をチャージし、後で支払時にそのチャージ残高を使う」形式の決済手段のことをいいます。チャージさえ事前にしておけば、その後迅速に決済を終えられるケースが多く、便利な決済手段の一つと言えます。なお、一度チャージした額の払い戻しは原則としてできません(例外あり*1)。

当初の「JPYC」 は、この前払式支払手段により発行されていました。いくつかの商品サービスの購入に利用できましたが、特に他の前払式支払手段と差別化できる要素はなく、使い勝手はいまいちだったと言ってもいいでしょう。

電子決済手段とは?

電子決済手段は簡単に言うと「払い戻しができる前払式支払手段」です。購入した電子決済手段は、同価値の円で払い戻しを受けることができます。100JPYCを買って持っていれば、いつでも100円を返してもらえるということです。

また前払式支払手段は、指定された商品しか買えませんが、電子決済手段はそのような制限はありません。何らかの商品やサービスの売主側も、前払式支払手段だとまず発行者に申請して加盟店となる必要がありますが、電子決済手段はそのような制限がなく、誰でも売主になることができます。

このように、購入者・売主双方にとって、利便性が高いのが電子決済手段です。そして保有者はいつでも払い戻しができる為、安心して決済に使うことができます。

ステーブルコインとは?

電子決済手段の説明を聞いたときに、「電子決済手段=ステーブルコイン」だと思った人がいるのではないでしょうか。実はそうではなく、「電子決済手段はステーブルコインの一種である」というのが正しいです。

ステーブルコインは、電子決済手段のような「発行者から購入する」ものだけでなく、発行者がいないパターンも存在します。これらのステーブルコインは、特定の発行主体がおらず、イーサリアム等のスマートコントラクト上に存在します。スマートコントラクト内にある資産がプログラムによって調整され、これにより円やドル等との価値連動を実現します。これらのステーブルコインは、日本の法律では「暗号資産」に該当します。

電子決済手段は必ず発行者がいますが、暗号資産に該当するステーブルコインには発行者がいません*2。したがって、必然的に払い戻しを受けることもできません。換金したい場合は、暗号資産取引所等を使い、法定通貨に交換する必要があります*3。

暗号資産とは?

他の物やサービスを購入できるお金のようなもので、法定通貨や電子決済手段、前払式支払手段等のいずれにも該当しないものです。「〜である」という定義ではなく、「〜ではない」という定義になっているのが特徴です。「これまでのどのお金とも、価値の根拠が異なるもの」と考えておけば問題ないでしょう(ビットコインやイーサリアム等が信用を生み出す仕組みは、歴史上存在したどの資産とも異なります。詳しくはこちらのシリーズを参考にしてください)。なお、暗号資産は、パソコンやスマートフォンなどの電子機器で処理することが前提となっています。

前述の通り、「JPYC」 はかつては「前払式支払手段」であり、今は「電子決済手段」です。つまりJPYC が暗号資産であったことは、一度もありません。ここはよく誤解される点であり、JPYC 社代表の岡部氏もしばしば言及しています。

資金決済法で暗号資産の定義には電子決済手段ではないもの、となっています。
従って電子決済手段であるJPYCは日本法で絶対に暗号資産ではない、ということになります!
— 岡部典孝 JPYC代表取締役 (@noritaka_okabe) September 12, 2025

図解

次に、前払式支払手段、電子決済手段、ステーブルコイン、暗号資産、JPYCの関係を以下に図解します。

図1 電子決済手段、ステーブルコイン、暗号資産、JPYCの関係

(以下、上級者向け)なお、日本の法律においては、「前払式支払手段」「電子決済手段」「暗号資産」は全て、ブロックチェーンであってもよく、ブロックチェーンでなくてもよいです*4。しかし、ステーブルコインは必ずブロックチェーンを用いている必要があります*5。つまり、極めて厳密にいうと、「ステーブルコインではない電子決済手段」が存在します。かつ、前払式支払手段以外は、電子機器による処理で実現する必要があります。これらを踏まえて、上記の図を修正すると以下になります。

図2 電子決済手段、ステーブルコイン、暗号資産、JPYC、電子機器による処理の関係(厳密)

とはいえ、ここまで深い議論をすることは法律家でもない限りほとんど無いでしょうから、基本的には図1の理解で問題ないでしょう。

今回は今話題のステーブルコインや「JPYC」に関して、さまざまなニュースや記事などで利用されているキーワードについて深掘りしてみました。これを読んでいただいて皆さんのステーブルコインについての理解が深まれば幸いです。

【訳注】

*1 例えば SUICA はカード返却の際に、チャージ額の払い戻しができる。
*2 USDT ($1.00)等の米ドル建てステーブルコインも発行者が存在するが、日本法において暗号資産なのか電子決済手段なのかは明らかではない。SBI VCトレード株式会社の記事によると、USDC ($1.00)は電子決済手段であるため、同様の仕組みであるUSDT等の米ドル建てステーブルコインも電子決済手段であると考えるのが自然である。「電子決済手段の発行には登録が必要」だが、「電子決済手段とみなされる為の登録は不要(法律上の要件に該当すれば自動的に電子決済手段とされる)」為、このような問題が発生する。
*3 発行者が存在するステーブルコインでも暗号資産取引所に上場していれば取引所で換金可能。USDTやUSDCの払い戻しを請求する者は少なく、多くの者は利便性を優先して取引所で換金していると予想される。
*4 資金決済法には「ブロックチェーン」とは書かれておらず、「電子機器その他の物に電子的方法により記録されるもの」と表現されている。したがって電子機器で残高等を記録するものであれば、どのような技術的方法を用いても構わない。
*5 そもそもステーブルコインは、「ブロックチェーンを使って米ドル等の法定通貨と連動した資産を作ろう」というアイデアで登場したものである。

著者紹介

「ステーブルコイン最前線」の著者である小宮自由は、ステーブルコインとブロックチェーンの技術的知見を活かし、「JPYC」を導入支援事業を行っています。ご興味ある方は、是非ともお問い合わせください。

→ AltPay株式会社



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