
世界を獲りにいく日本発Web3企業、その組織や戦略は?
今年1月にメインネットローンチしたSony Block Solutions LabsのイーサリアムL2「ソニューム(Soneium)」。数多くのL2の中でも現在、急成長するプロジェクトの1つである同チェーンをソニーグループとともに開発・運用するのがスターテイル・グループだ。日本発で世界に挑戦するスターテイル・グループはどんな組織なのか。今回「あたらしい経済」編集部は、同社の組織や人材についてフォーカスして取材を実施。スターテイル・グループを率いる渡辺創太氏に加え、熊谷祐二氏と海老島幹人氏に、同社の組織や戦略、カルチャーなどについて語っていただいた。
渡辺創太、熊谷祐二、海老島幹人の3人から見た、スターテイルという組織
渡辺創太氏(中)/熊谷祐二氏(右)/海老島幹人氏(左)── 現在のスターテイルの組織体制や、皆さんの役割について教えてください。
渡辺創太(以下:渡辺):私はスターテイル・グループのCEOを務めてます。現在同グループ傘下にStartale LabsとStartale Cloud Servicesという会社があります。Astar Networkに加えてソニーグループと弊社のジョイントベンチャーであるSony Block Solutions Labsが、現在ソニューム(Soneium)の運用を担っている他、博報堂とのジョイントベンチャーである博報堂Key3や、日本ブロックチェーン協会も理事として関わっています。
熊谷祐二(以下:熊谷):私はスターテイル・グループが持つブロックチェーンプロトコル事業において、ビジネス面を横断的にマネジメントしてます。
技術部門とも連携しながら、ビジネスの全体戦略や予算、スケジュールの策定、プロジェクトマネジメントなどを担っています。また日本市場も私の管轄で、日本の大企業、スタートアップ、ビルダーの皆さんのBD(Business Development)も担当させて頂いてます。
海老島幹人(以下:海老島):私はStartale Cloud ServicesでWeb3エンジニアの開発効率を向上させるプロダクトの開発をしているチームをリードしています。エンジニアがソニュームやアスター上でアプリケーションを構築していくために必要な技術的コンポーネントを整える役割です。ノードRPCといった、エンジニアとブロックチェーンとを繋ぐインターフェースの開発をはじめ、「Account Abstraction(アカウント抽象化)」の開発ツールなど、エンジニア向けのツールを設計・構築するセクションにいます。
── 熊谷さんと海老島さんのこれまでのキャリア、そしてスターテイルで働くことになったきっかけは?
熊谷:これまで複数の会社を起業してきまして、最後に立ち上げたeスポーツの会社をアカツキに売却し、その縁から7年ほどアカツキに在籍していました。アカツキでは新規事業の立ち上げや国内投資を担当していましたが、そんな中、Axie Infinityのトレンドを見て「エンタメ業界もクリプトで大きく変わっていくだろう」と感じたのです。そこで役員に提案し、シンガポール拠点のEmooteというアカツキ100%子会社のベンチャーキャピタル(VC)を立ち上げました。今振り返るとそのファンドでSTEPNやYGGなど、クリプト領域で象徴的なプロジェクトにも投資ができ、非常に刺激的な仕事ができたと思います。

そんなEmoote時代のシンガポールでの移住生活の中、渡辺と知り合いました。オフィスも近くにあり、友人のような付き合いから、そのうちビジネスの話もするようになりました。当時スターテイルが韓国市場に本格進出する上で、私の知っている投資家を紹介して欲しいと渡辺から相談を受け、10件ほど紹介したんです。その中の1つが韓国最大の企業であるサムスンでした。
その後サムスンがスターテイルに興味を持ち、結果としてサムスンの投資部門であるサムスン・ネクストからの投資が実現しました。リードは東南アジアでもトップの銀行であるUOB銀行傘下のUOB Ventures、そこにサムスンも参加するという非常に豪華な布陣でした。
そのとき私はまだファンドの立場でしたので、そのラウンドに投資したいと申し出たんですよ。Emooteとしては新規投資期間の終盤だったこともあり、1号ファンドの最後の投資先をスターテイルにしたかった。当時渡辺はそれに同意してくれていて、話が進むものだと思っていました。しかし最終的にスターテイルの取締役会で否決されたんです。確かにEmooteは若いVCで、他の投資家はアジアを代表する企業ばかりでした。
ただその対応を見て僕は「この会社はガバナンスが効いているな」と好印象を持ちました。そしてしばらくしてから渡辺から「投資は無理でしたけど、一緒に働きませんか」とオファーを貰ったのです。
実際、私はVCとしてこれまで多くのクリプトプロジェクトを見てきましたが、スターテイルのようなスケール感のあるプロジェクトは稀有ですし、「Web3を起点に世界を代表する企業になる」という構想や「短期的なトークンに頼るのではなくエクイティで、10年スパンでビジネスを作っていく」という姿勢もすごく共感しました。日本の文脈を持ちながら、アジア発で世界に展開していくというストーリーの中で、自分が当事者として関われる。こんな大きなチャンスは人生でもう二度とないと感じ、ジョインすることを決めたんです。
海老島:私は前職はマイクロソフトで、いわゆるAzureの成長に関する戦略立案・実行を担当していました。表からは見えないけれど、止まると甚大な影響を及ぼす、そんなシステムに関わっていました。

またクリプトにも2017年ごろから興味を持っていて、当時アスターやスターテイルを立ち上げる前の渡辺の登壇するイベントなども見に行って、同世代ですごい起業家がいると思っていたんです。
マイクロソフトではインフラに加え、スタートアップ支援の仕事もしていたので、その頃から渡辺と連絡をとり、スターテイルの前身のプロジェクトの頃からお付き合いがはじまりました。そして渡辺がアスターを立ち上げ、日本を一つ注力マーケットにすると計画した際に「一緒にやらないか」と声をかけてもらったんです。
当時、マイクロソフトには3年ほど在籍していました。いわゆるWeb2のインフラ市場はすでに成熟しています。成長率で言えば年間数%程度。それはそれで大きな数字ですが、私はまだ20代でしたし、もっと爆発的に成長する領域に飛び込みたいという気持ちが強かったんです。だからスターテイルで働く決断をしました。
── 渡辺さんはチームを率いる立場として、スターテイルという組織をどう見ていますか?
渡辺:現在スターテイルは、20カ国を超える国籍のメンバーが働いてくれています。直近で入ってきたメンバーをみても、たとえばWeb3では、バイナンス、ポリゴン、Crypto.comなど、Web2ではグーグルやマイクロソフト、Y Combinator出身の起業家など誰もが知るようなグローバルプロジェクト出身の人材が多い。なので当然給料水準も非常に高い。「世界トップレベルで経験を積んできた人たちが、今ここにいる」っていう感覚があります。
手前味噌ですが、そんなチームを見ていて、日に日に議論のレベルが上がってきていると実感します。スピード感、思考の深さ、そして何よりみんなの我の強さですね(笑)。言いたいことをしっかり言う、でもロジカルに進める。そのバランスを持って、世界に向けて戦える組織になってきたと実感しています。
スターテイル・グループの2025年ワーケーション時の集合写真── 皆さんから見て、海外出身のスタッフはどのような魅力を感じてスターテイルに入ろうと思った人が多いと感じますか?
熊谷:もちろんソニュームなどのプロジェクト自体に引かれてという理由も当然あるのですが、それに加えスターテイルの人材の魅力、そして戦略にアラインして入ってきてくれる人が多いです。
スターテイルはWeb3業界の垂直統合を目指し長期目線の戦略を立てています。例えば自動車産業でいうと様々な部品があるなかで、下流から上流までを統合しているテスラのような戦略を持っています。私自身も共感する部分ですが、大きなものを作るためにちゃんと時間をかけて取り組んでいるところが魅力です。みんなと話すと、クリプト業界の短期戦にもう嫌気が差したと感じてウチに来たというメンバーが多いんですよね。
そして、私たちのミッションに共感して入ってきてくれるスタッフも多いです。スターテイルは「Web3 for Billions(数十億人の人が使うWeb3)」という言葉を掲げています。 Web3を一部のニッチな世界だけで完結させるのではなく、いかに多くの人に届けていくか。それを考えて従来とは異なる戦い方を仕掛けようとしている部分に、魅力を感じてもらえていると思います。
渡辺:そしてスターテイルのカルチャーも評価してもらえていると思います。Web3業界で、企業カルチャーの重要性が過小評価されていると感じているのです。Web3では、多国籍のメンバーがいてオフィスも無い環境で働くことが多いじゃないですか。みんなで日々顔を合わせたり、雑談することも難しい。そうなると一番メンテナンスが難しいのはやっぱりカルチャーなわけです。
プロダクトはコピーできるけど、カルチャーはコピーできない。コピーできないものにこそ、フォーカスしリソースを注ぐべき。みんなプロダクトや技術の真似をしようとするけど、本質的にはカルチャーのほうが再現性がないし、差別化になる。
だからスターテイルでは、具体的には世界のメンバーが一箇所に集まるワーケーションをやったり、例えば今年はみんなで真剣に運動会をしたり(笑)、カルチャーを醸成する取り組みも積極的に実施しているんです。
スターテイル・グループの2025年ワーケーションにて── 現在もスターテイルは採用をしていますか?
海老島:もちろん現在も積極的にエンジニアやBDポジションを募集中です。グローバルのトップレベルの人材と一緒に、世界に挑戦したいという方がいれば、積極的に応募してもらえると嬉しいです。 また、スターテイルは高い給与水準を設定しています。CoinbaseなどUSのスタートアップと比較しても遜色ないレベルのベース給料と、アップサイドをパッケージとして提供しています。職種や経験、居住国によりますが、ベースだけで数千万円相当になるスタッフもいます。その部分も、世界と戦えるレベルかと考えています。
熊谷:もちろん海外の方に限らず、日本の方も大歓迎です。ブロックチェーンエンジニアやプロジェクトマネージャー、マーケター等多くのポジションを募集しています。最近はWeb3での業務経験ではなく、プロダクト開発やプロダクトグロースの経験を重要視しています。
── 日本の企業とのプロジェクトというお話がありましたが、確かに大手企業とこれまでも提携してきた印象があります。大企業と仕事をする際に大切にしていることはありますか?
熊谷:まさにソニーさんや博報堂さんとジョイントベンチャーを設立していますし、現在もまだ発表できないですが、大手企業と進めているプロジェクトがあります。
その上で我々が強く意識してることが、会社全体としてパートナー企業さんに敬意を持ち続けることです。スタートアップの論理だけで考えてしまうとスピード感やリスク許容度が原因で、日々のコミュニケーションや意思決定が折り合わないことがあります。
またスターテイルのメンバーは、80%以上が海外出身者で、日本の大手企業の文化や思考が理解しづらいメンバーがいることも事実です。そんな時にはメンバー1人1人が敬意を持ちながら先方の理解に努めることがとても大切です。大企業とスタートアップ、日本とグローバルの融合こそが我々の差別化に繋がってます。
渡辺:こうした提携も試行錯誤の繰り返しで、連携を発表できても、実際には進まないケースも多々あります。例えば、スターテイルではなく、アスターでの話になりますが、過去にはNTTドコモとの連携の話を覚えている方も多いかもしれません。NTTドコモさんとはアスター(注: 法人としてはStake Technologies)でWeb3の普及に協力して取り組む基本合意を2022年に発表しました。その後両者で検討を進めたのですが、残念ながら具体的なプロジェクトを実施するには至っていません。
規模が大きくなったり、ステークホルダーが増えたりする分、実現のハードルは上がります。だからこそ、実際にいくつかのプロダクトを大企業のパートナーとローンチできたことは非常に嬉しいです。
── これからのスターテイルの戦略と展開を教えていただけますか?
渡辺:日本人がこの業界でグローバルな環境で勝つには、「世界の土台にあがれるだけの金融と、差別化としてのエンタメ」がキーワードです。ブロックチェーンの本流は依然として金融サービスであり金融をテコにしてプロダクト展開をする必要があります。一方で金融だけではどうしてもアメリカのプレーヤーと対等に戦うのは非常に難しいです。日本の強さははやりエンタメだと思うので、オンチェーン経済圏において金融をベースとしながらエンタメの要素をどれだけいれて今までブロックチェーンを触ったことがない人たちが知らない間にオンチェーン取引をしているような体験を設計することが日本の活路です。
スターテイルはスタートアップなので、金融においてもエンタメにおいても事業連携が重要になります。同時に、ユーザー体験を劇的に変えるようなウォレットであったり、決済やステーブルコインであったりはスターテイルとして事業化を行っていく予定です。

── アスタートークン(ASTR)については?
渡辺:アスタートークンについてもまだ発表できないですが、色々な取り組みを計画しています。
ブロックチェーンはインフラであり、プラットフォームです。だから将来的に、2、30年のスパンで考えれば数えられるほどしか残らないと考えています。例えばiOSとAndroidのように。私たちが今行っているのは、そこに残るための意思決定なんです。
短期的な視点ではなく、長期的な視点に立って意思決定をしていきます。
私自身はシンガポールからアメリカに拠点を移しました。これからプロジェクトを拡大していく上で、アメリカは避けて通れない。トランプ大統領になって明らかに環境の変化を現地で感じます。アメリカでの成功なくて、グローバルでの成功はない。
今まではビジネスドリブンな会社だったと思いますが、ここからは本気でプロダクトをどんどん出していきます。その過程で、アメリカでも世界でも本当にトップランクのブロックチェーン企業になることを目指します。
関連リンク
- スターテイル・グループ
- ソニューム
取材/編集:設楽悠介(あたらしい経済)
写真:スターテイル・グループ提供













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