今こそ企業がWeb3に参入すべき理由
キャッシュレス決済や電力のようなインフラから、産業・公共を支えるサービスまで、社会基盤をITで支える日本のリーディングカンパニーであるTIS株式会社。同社は数年前からブロックチェーン・暗号資産(仮想通貨)などWeb3領域への事業も展開している。
今回「あたらしい経済」では、TISでWeb3ビジネスを推進するWeb3ビジネス企画部 副部長 山崎清貴氏と、Web3リサーチャーのコムギ氏の対談をお届けする。企業が今なぜWeb3領域に参入すべきなのか、どのようにビジネスを発想していくべきか、TISでどのような企業支援ができ、どのような強みがあるのか、両氏に語っていただいた。
【対談】TIS「Web3ビジネス企画部」山崎清貴×リサーチャー コムギ

コムギ:これまでTISさんはWeb3領域でどのような事業を展開されてきたのか教えてください。
山崎: TISは2016年から、ブロックチェーンが近未来の金融インフラとなると考え、技術者育成を開始しました。その後2018年「Blockchain推進室」を立ち上げ、組織を拡大させて、2024年にWeb3関連ビジネスの社会実装を推進する専門組織「Web3ビジネス企画部」を新設しました。
現在はこの組織で、コンサルティングやさまざまな技術スタックに対応したWeb3システム開発、セキュリティ診断、ノード運営、IEO支援、DAO支援など幅広いサービスを提供しています。
コムギさんは暗号資産メディアの編集長や、Web3専門VCのリサーチャーなどのお仕事を通じて、ここ数年業界をウォッチされて来たと思いますが、現状のWeb3と日本の状況をどう捉えていていますか?
コムギ:米国大統領に暗号資産推進を掲げていたトランプ氏が就任した瞬間に、世界が変わったと思っています。それ以降、米国で規制緩和の動きが日々報道されています。これからグローバルでWeb3領域に向かっていくのだという流れを、米国が作ったわけです。
そんな中で各国のWeb3へのアプローチにはいろんな特色があるのですが、日本市場はグローバルと比較して面白い特徴があると感じています。それはTISさんのように、大手企業のWeb3への取り組みが積極的だという点です。
グローバルでも金融領域の企業は暗号資産系の事業に取り組んでいますが、日本では非金融の企業も含め、多くの企業の参入があります。米国がGOサインを出したこのタイミングで、日本がこのような状況にあるのは強みだと思いますし、まだ参入していない企業には、「いよいよタイミングが近いのではないか」とお伝えしたいですね。
TISはどんな企業から相談を受けている?
コムギ: TISさんには、今どのような企業からの相談が多いですか?
山崎:まず、金融業界からのステーブルコインや預金型のデジタルマネーであるトークナイズド・デポジットに関する領域の相談を多数いただいています。そして、製造業や流通業からも「Web3で何かやりたい」というご相談も定期的にいただけていますね。
コムギ:金融はもともとTISさんが強い領域ですよね。金融のシステム開発をされてきた実績と、セキュリティにも強く、独立系で、いわゆるWeb2.0の領域でも多数の実績がある。その上で金融以外の企業からも声がかかるというのは特徴的ですね。
山崎:製造業や流通業のWeb3の開発やサポートをできる企業は、まだスタートアップが多い状況です。まず試してみよう、PoCからやってみようという段階では、スピード感がありコストも安い会社に依頼するケースが多いと思います。
ただそれらの段階を経て、いざ氷山に向かって行こうというタイミングになると、ありがたいことに私たちにご相談いただくというケースがあります。
コムギ:ブロックチェーンというインフラに載せるものって、結局価値のあるもの、つまりアセットであることが多いですよね。価値を表象するものがトークンで、その価値移転をスムーズにするインフラがブロックチェーン。だからしっかりやろうとすればするほど不安要素も増えてくる。そうなると、既存のシステム開発で経験が豊富で、かつ伝統金融領域もずっと携わってきたTISさんに声がかかるという流れになるわけですね。
TISが支援するトークン経済圏
山崎:そのように評価いただけているのは嬉しいです。おっしゃる通り、私もWeb3の本質はやはりトークンだと思っているんですよ。TISとしても、ご相談いただく企業の皆さんに対して「トークン経済圏で新たなビジネスを。」という基本方針で支援させていただいています。
具体的には、経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報を以下のように4象限で捉え、それぞれのセクションにチームを組んで企業をサポートしています。そして将来的にはこの図のように、先々は連携して経済圏を繋げていけないかと考えています。
コムギ:よく抽象化された図ですね。下の2つ(情報・カネ)が基盤に近い部分で、上(ヒト・モノ)がアプリケーションに近い部分という構成ですね。
「あって当たり前」「事故を起こさなくて当たり前」という世界観のところが基盤にあって、そこはTISさんがもともと得意なところだからこそ、ちゃんとヒト・モノっていう領域に踏み出していこうという、勝手ながらですがそんなTISさんの方針を感じとりました。
TISさんは古くから日本でクレジットカードの基盤を作られてきたという意味で、Web2.0以前の時代から金融にいろいろなものが繋がっていく事業を支援されてきたわけですよね。だからWeb3でもそれをやるべきだとお考えなのは、当然のような気がします。
山崎:おっしゃる通り、私たちが目指しているのはそこです。TISインテックグループには、約15,000社のお客様がいらっしゃいます。例えば、企業が自社の顧客基盤を活かして独自の経済圏を築いているように、それらのお客様がそれぞれ独自の経済圏を作ること、そしてその経済圏を繋げていくことを、私たちはWeb3を活用してプロデュースしていきたいと思っています。
コムギ:少しWeb3から脱線しますが、今、日本では企業が株主優待を増やす動きが活発になってきていますよね。それは企業が買収を阻止したり、アクティビストに対応したりするために、株式を分散的に個人に所有してもらうことで安定経営ができるという発想からの流れです。最近では個人株主が経済圏の入り口みたいな考え方が広がってきている。
この流れって、すごくWeb3っぽいと感じているんですよね。トークンエコノミーを作るというと、Web3の夢物語とか感じられる方もいるかもしれませんが、ポイントサービスなどの経済圏をめぐる競争はもう既に起こっている。株に限らず、企業がどのように個人顧客と繋がっていくかを考えた時に、Web3を活用するのはごく自然な流れになっていくと考えています。
ちなみに山崎さんはこの4つの領域の中で、どこを担当されているのですか?
山崎:私は「ヒト」を担当しています。DAOやコミュニティ、インセンティブコミュニティの部分です。
例えば、フィナンシェさんとのトークン発行型クラウドファンディング&コミュニティ支援やIEO支援、またガイアックスさんとのDAO組成・運用オールインワンツール「DAOX」の販売パートナーなどの取り組みが私の担当です。
Web3に参入したい企業にどうアドバイス?
コムギ:企業から「まだ具体的なアイデアがないけれど、Web3に参入したい」というような相談が来た場合は、どう対応されていますか?
山崎:まずは現状のビジネスにおいて何を解決したいのか、その課題についてヒアリングしてコンサルティングしていく流れになります。会社の方針としてWeb3をやることになったけれど、まだ具体的なアイデアがないという企業も多いのですが、話してみると担当者レベルでは課題を感じているケースも多いので、そこを丁寧に掘り下げていきます。
そのうえで、その企業が持っているアセットをWeb3でどのように展開していけるかを一緒に検討していきます。
コムギ:企業は、広い意味で多くのアセットを持っていますよね。顧客データなどは分かりやすいですが、それ以外にもソフトパワーやIP ($4.01)みたいなものもある。それ以外にも企業ごとに実は埋もれた価値みたいなものが必ずあるんですよね。灯台下暗しではないですが。
山崎:その埋もれた価値を引き出すことをお手伝いするのが私たちの仕事です。はじめは課題をヒアリングするものの、最終的にはどんな価値創造ができるかを一緒に企業と考えていくようにしています。単純な課題解決ならWeb2.0でできるじゃん、となってしまう。やっぱりWeb3で重要なのは、トークンなどを使った新たな価値創造だと思っていますので。
コムギ:今、企業がWeb3に取り組んでいくことの先行者優位は、まだまだ大きいですよね。前述の通り米国も本気で動き始めましたので、それぞれの企業が属する業界の中で価値創造してWeb3のシェアがどう取れるか、拡大していけるか、という競争が本格化していくフェーズになっていくはずです。
スタートアップと連携する理由は?
コムギ:TISさんはそのようなコンサルから開発までワンストップで支援できる強みをお持ちだと思うのですが、先日gumiの子会社gC Labsさんと提携してWeb3コンサルティングサービスを発表しましたよね。これはどのような意図なのでしょうか?
山崎:「NUE3(ヌエスリー)」というサービスですね。私たちがWeb3事業に必要なシステム基盤開発、スマートコントラクトの開発、セキュリティ診断などの開発支援全般を担う。そしてgC Labsさんに市場分析やビジネス構築支援のアドバイザリー、トークンエコノミクスの設計支援、コミュニティマネジメントのアドバイザリーなどのコンサルティングを行っていただき、企業の皆さまを支援する共同事業です。
もちろん私たちだけでもワンストップな支援もできるのですが、トークン発行やエコノミクス設計に経験と強みのあるgC Labsさんと組むことで、より幅広く、より実践的に企業のWeb3参入を支援できればと考えて立ち上げました。そしてgC Labsさんとは、ブロックチェーンのノード運営および暗号資産会計管理システムの提供する合弁会社Hinode Technologies(ヒノデテクノロジーズ)を立ち上げることも先日発表しました。今後は、そのノード運営などの知識やノウハウも、「NUE3」のコンサルに活かしていきたいと考えています。
コムギ:大手IT企業のアプローチって、全部自前でやってパイをとっていくというようなイメージがありましたがTISさんは違いますね。より強みを活かせるならば、新興のスタートアップとも柔軟に組んでいこうという意気込みを持っているように見えます。
これってすごいWeb3の思想や哲学に準じていると感じました。
山崎:例えば、私たちは「Web3セキュリティ診断サービス」も提供していますが、これはTECHFUNDさんと提携事業です。
Web3におけるセキュリティといえば、まずスマートコントラクト監査などが頭に浮かぶと思います。それは大事な部分ではあるものの、サービス全体で見るとあくまで一部のパーツなんですよね。そこ以外にもフロントエンドとかアプリとかのWeb2.0的な部分の安全性も大切なんです。
だからこそこの取り組みも、Web3システムのセキュリティ診断の実績のあるTECHFUNDさんと、私たちのWeb3の事業ノウハウに加えWeb2システムで培ったセキュリティ診断実績を組み合わせたものになっています。
コムギ:そのほかにも、デジタル証券(セキュリティトークン)を活用したアニメ映画製作の資金調達に向けてのクエストリーさんと提携や、double jump.tokyoさんに出資してステーブルコインを活用した決済サービスの展開を進めるなど、今年に入っても多数の提携を発表されていますね。
競合しそうに見えるけれど、あえて手を取り合うという選択。これはすごいお互いにリスペクトがあるだろうなと想像しています。TISさんはすごくスタートアップフレンドリーな会社という印象になりました。
どんな企業を支援していきたい?
コムギ:TISさんにコンサルから開発までお願いすると、どのぐらいの費用が必要なのでしょうか? また、どのような業界の企業ご相談にきて欲しいなどあれば教えてください。
山崎:費用に関しては、正直どこまで何をやるかによって大きく変わるので、一言ではお答えできないです。ただ、仮に新たな経済圏とか価値を創出するシステムを、Web2.0で開発するとして、その費用感をWeb3での実施を比べると、決してWeb3だから高いというわけではないですね。むしろコストを抑えて実現できるケースも多いと思っています。
また、私たちは既存のビジネスでも金融領域に強みがありながらも、さまざまな製造業や流通業の支援もしています。そういった意味では、Web3進出を川上から川下まで全方位的にサポートできると思いますので、業界を問わずどんな業界の企業でもウェルカムです。
繰り返しになりますが、Web3にとって大切なのは既存のシステムのリプレイスやDXではなく、価値創造だと思っています。だからこそ業界にこだわらず、さまざまな企業がトークン経済圏で新たなビジネスを実現できるように支援していきたいです。
コムギ:Web3においてあらゆるものがアセット化していくと考えると、確かに業界の垣根も低くなっていきますよね。今日お話を聞いて、そんな状況の中でTISさんが橋渡し役として存在されているのだと感じました。今後もTISさんが支援して、ヒト・モノ・カネ・情報の領域で、面白いWeb3のビジネスが生まれていくことをリサーチャーとして楽しみにウォッチさせていただきます。
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インタビューイ・プロフィール
山崎清貴
TIS株式会社|ソーシャルイノベーション事業部 Web3ビジネス企画部 副部長
2002年TIS入社。主に電力業界でのポータルサイトなどの情報基盤におけるアプリケーション開発、プロジェクトマネジメントを経験。2019年よりWeb3ビジネス企画部の前身である、Blockchain推進室にて、トークン活用による環境価値取引や、ブロックチェーン活用による保険金自動請求など、企業向けのビジネス企画推進を担当。2023年より現職。
コムギ(comugi)
リサーチャー・編集者
ビジネス書の編集者、グローバル暗号資産Webメディア日本版の編集長、シンガポール拠点のWeb3ファンド「Emoote(エムート)」共同創業者・リサーチャーを歴任。Web3などデジタルテクノロジー分野の最新動向を追う。著書に『デジタルテクノロジー図鑑 「次の世界」をつくる』(SBクリエイティブ)。
取材/編集:設楽悠介(あたらしい経済 編集長)
撮影:堅田ひとみ