押収暗号資産の扱いで議論活発化
中国で違法取引から押収された暗号資産の量が急増していることを受け、地方政府はこれらの資産の処分方法を探る一方、裁判所や金融業界からは規制強化を求める声が強まっている。
本土での取引が禁止されているビットコイン(BTC ($94,306.00))や他のトークンの押収品について、当局がどのように扱うべきかに関する規則の欠如が、一貫性のない不透明な対応を生む原因となり、一部では犯罪者を助長し腐敗を招く恐れがあると弁護士らは指摘。
弁護士らは、上級裁判官や警察と協力し、押収された暗号資産の扱い方法を変更する規則の改正について議論している。
これは中国の暗号資産業界にとって大きな転機となる可能性があり、ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領の2期目における米中緊張の高まりと時期を同じくしている。トランプ大統領は暗号資産の規制緩和とビットコイン準備金の創設を計画している。
一方中国では暗号資産取引が禁止されており、デジタルトークンは法定通貨や資産として認められていない。
しかし、ロイターが入手した取引文書と裁判文書によると、地方政府は民間企業を通じて押収したデジタルコインを現金と交換し、経済減速で逼迫した地方財政を補填するために売却してきた。
こういった処分は「厳密には中国の暗号資産取引禁止措置と完全に一致しない暫定的な解決策だ」と、中南財経政法大学(Zhongnan University of Economics and Law)のチェン・シー(Chen Shi)教授は指摘。
チェン教授は、1月に開催されたセミナーにて関係当局者と議論した際、案件の数と金額が急増していることから、より厳格な監督が急務だと指摘した。
このセミナーには、深センを拠点とする弁護士のグオ・ジーハオ(Guo Zhihao)氏も参加し、中国の暗号資産取引禁止措置は、地方当局が押収したデジタル通貨を現金化する必要性と矛盾していると指摘した。
北京市盈科律師事務所(Beijing Yingke Law Firm)のシニアパートナーであるグオ氏は、中国の中央銀行が暗号資産の管理に適切な立場にあると指摘し、トランプ大統領の計画のように海外売却か押収トークンによる暗号資産準備金の創設を提案した。
このセミナーは、最近数ヶ月間で開催された複数のセミナーの一つで、すべての提言を受け付けており、具体的な実施を保証するものではない。しかし、参加者および市場関係者は、暗号資産を資産として司法的に認める必要性と、差し押さえた暗号資産の処分に関する統一手続きの必要性について、ほぼ一致した見解が浮かび上がっていると指摘している。
刑事事件の急増
今年に入っての暗号資産を巡る犯罪件数の急増に伴い、インターネット詐欺やマネーロンダリング、違法賭博といった事例を含めて、中国国内での議論が一層活発化している。
ブロックチェーンセキュリティ企業のセーフィス(SAFEIS)によると、暗号資産関連犯罪に絡む資金は2023年に10倍増の4307億人民元(約590億ドル)に達した。また、最高人民検察院によると、昨年は暗号資産関連マネーロンダリングに関与した3,032人が起訴された。
また、公式の公共予算データによれば、暗号資産関連犯罪の摘発件数は、地方自治体の罰金・没収収入の急増と一致しており、2023年には過去最高の3,780億人民元(約65%増)に達した。
暗号資産関連問題で地方政府を助言する弁護士のリウ・ホンリン(Liu Honglin)氏は、押収された暗号資産が一部の都市の財政の主要な収入源となっていると指摘。国境を越えて容易かつ匿名で送金可能なデジタルコインは、犯罪者にとってますます人気のツールとなっていると述べた。
しかし、地方政府の暗号資産の処分を委託する民間企業を規制するルールは存在しておらず、これについては見直しが必要だとリウ氏は指摘している。
深センに本社を置くテクノロジー企業のジャーフェンシャン(Jiafenxiang)は、2018年の設立以来、中国東部江蘇省の徐州、華安、泰州など地方自治体を代理して、海外市場で30億人民元相当の暗号資産を売却してきた。これはロイターが入手した文書にて判明した。
取引記録によると、米ドルの収益は現地銀行を通じて人民元に交換され、その後、地方財政局の口座に送金されている。
ジャーフェンシャンはコメントを拒否した。徐州(Xuzhou)、華安(Hua’an)、台州(Taizhou)の地方政府はロイターのコメント要請に応じなかった。
ビットコイン投資会社リバー(River)によると、中国地方政府は昨年末時点で約1万5,000ビットコイン(約14億ドル相当)を保有し、世界第14位のビットコイン保有国となっている。
収益性の高さ
ブロックチェーンサービスプロバイダーのビットジャングル(Bit Jungle)は、資産の安全性を確保し、ライセンスを取得した海外取引所を通じて売却し、資本管理規則に準拠する場合、民間企業が地方政府の暗号資産処分を支援することは合法的だと指摘する。
上海蘭迪法律事務所(Shanghai Landing Law Offices)の暗号資産専門弁護士でシニアパートナーのサン・ジュン(Sun Jun)氏は「これはますます多くの参加者を引き付ける高収益ビジネスだ」と述べた。
サン氏は、中国が暗号資産の財産属性を明確化し、暗号資産の処分を担当する機関または制度を設立し、第三者企業を審査すべきだと提案した。
香港最大のライセンス取得済み暗号資産取引所ハッシュキー(HashKey)の共同CEOであるルー・ハイヤン(Ru Haiyang)氏は、中国は没収したビットコインを戦略的備蓄に保有するというトランプ大統領の計画に類似した措置を検討すべきだと述べた。中央政府は、資産処分を地方自治体や省レベルで処理するのではなく、中央で統合して行うべきだともルー氏は述べている。
ニューヨーク大学法科大学院の客員教授で、中国投資公司(CIC)の元マネージングディレクターであるウィンストン・マー(Winston Ma)氏も、暗号資産の没収を中央集権的に処理するメリットを指摘し、暗号資産取引が認められている香港に暗号資産主権基金を設立する案を挙げた。
「より中央集権的な管理を導入すれば、中国は押収した暗号資産の価値を最大化できるだろう」とマー氏は述べている。
※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。
China debates how to handle criminal crypto cache
(Reporting by Shanghai and Hong Kong Newsroom; Editing by Vidya Ranganathan and Lincoln Feast.f)
翻訳:高橋知里(あたらしい経済)
画像:Reuters
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