
日本でビットコインが普及しない理由は?
今年、何度も史上最高値を更新しているビットコイン。米国ではトランプ大統領がビットコインをはじめとした暗号資産関連の規制緩和を進め、産業として推進を推し進めている状況だ。それに追随するように世界各国でも暗号資産に注目が集まっている。しかし日本はどうだろうか?
「World Population Review」によると、日本のビットコイン保有者数は約500万人で世界で15位というデータがある。現在国内暗号資産取引所の総口座数が約1200万口座と公表されているが、もちろんこの数字には重複口座も、ビットコイン以外の暗号資産を持っているケースも含まれる。そういう意味では、このランキング結果は妥当だと捉えられる。
引用:World Population Review よりではなぜ、かつて世界でも暗号資産大国として評価されていた日本が、このような現状になったのか。ビットコインが日本で普及しない理由は何なのか?
その理由を探るべく、本メディア「あたらしい経済」編集長の設楽悠介は、古くからビットコイナーとしての情報発信や、Diamond HandsやBlockstream Japanなどのビットコイン関連事業を展開してきた東晃慈氏に取材を申し込んだ。同氏に、日本におけるビットコイン普及の阻害要因や、米国政府の動きや上場企業のビットコイン財務戦略、また一般の人の持つビットコインへの誤解などについて語ってもらった(取材場所:TOKYO BITCOIN BASE)。
対談:ビットコイナー 東晃慈 × Web3メディア編集長 設楽悠介(前編)
設楽:日本はビットコインの保有量や保有者数がグローバルで上位ではない状況にあります。私自身も2017年からこの業界で仕事していますが、今年ビットコインが史上最高値を更新している年でもあるにもかかわらず、イマイチ日本ではかつてのような盛り上がりに欠けるとも感じています。
古くからビットコイナーとして活動してきた東さんは、日本でビットコインが普及しない理由や要因は、何だと考えていますか?

東:その理由は複数あると思っています。まずよく言われていることですが、厳しい規制と税制の問題です。もちろん「暗号資産のキャピタルゲイン税は住民税を含め55%で高い」というのは高所得者の場合で、税率が高いという話が先行しすぎている気もします。しかしそのような印象も含め、参入の阻害要素になっているのは間違いないでしょう。
さらにメディアの問題も大きい。報道するメディア側も、そしてメディアに出てビットコインを語る出演者側も、まだまだビットコインへの理解度が低い。日本のメディア報道は、ビットコインは怪しいというスタンスから抜け出せていないですよね。設楽さんはメディアの側の立場として、どう思いますか?
設楽:確かに大手メディアの暗号資産に関するリテラシーの低さは問題だと感じます。僕も時々メディアに呼んでいただいて話すのですが、基本はマイナスから入るような議論になることがしばしばです。
またいわゆる仮想通貨(暗号資産)という言葉で、ビットコインも他のコインも、はたまた本当に怪しい詐欺のコインも、一緒のもののように報じられることもある。さらに犯罪やマネロンに暗号資産が使われてしまうこともあり、それが怪しいという印象を助長している。ただ犯罪にもちろん円やドルも使われているわけで、本来おかしな話なんですが、どうしても暗号資産の方がセンセーショナルに言及されてしまいがちですよね。
あと日本ではコインチェックのハッキング事件の影響も、未だあるんではないかと思います。あの事件が起こるまでは日本は世界でも暗号資産が盛り上がっていた国だった。でもあの事件が起きて、やっぱり仮想通貨は危ないという誤解が広がってしまった。
東:そこを引きずってるメディアも投資家もまだ多いですよね。今更ですが、あればビットコインのシステムの問題でもないし、そもそもビットコインが盗まれたわけでもない。取引所のリスクマネジメントの問題だった。だけどそれで仮想通貨は怪しい、危ないというイメージが先行しちゃったんですよね。
設楽:今、証券口座の乗っ取り詐欺が日本で流行ってしまっていますが、でも株が怪しいとか危ないと言う人は少ない。でも暗号資産はまだまだ仕組みも含めた一般の理解度が低いから誤解されてしまう。
東:そういう雰囲気が根付いていて、メディアがむしろ助長しているとも感じます。
あと日本で怪しいと言われる理由として、ビットコインを使えるところがあまり無いという理由もある。さらに取引所で買うのもまだまだ簡単ではない。海外だとクレジットカード使ってウォレットから簡単に暗号資産を買えたりしますからね。使えない、買いづらいというのはニワトリか卵かの話ではありますが、普及しない理由の一つだと思います。
そしてこれらの要因は規制や税制の厳しさという問題に繋がってくるわけです。このようにビットコインが日本で普及しないのは、一つの大きな理由というより、複数の問題が絡まり合っているんですよね。

日本の国民性とビットコインの相性の悪さ
東:それらの複数の要因に加え、日本の文化、日本人の国民性もビットコインの普及を遅らせている気がします。ブロック社が2022年に公表したレポート「Bitcoin:Knowledge and Perceptions」の中で、日本のビットコインに対して楽観的な見通しを持っていると回答した人は11%と、調査対象の13カ国中の最下位でした。
引用:Bitcoin:Knowledge and Perceptionsビットコインは、リバタリアン的で、政府など中央集権的な力が大きくなること、それらにコントロールされることを嫌うという人の思想にマッチするものです。初期からビットコインを支えてきた人たちはそういう思想を持っている。そういった思想が日本ではなかなかフィットしないのかもしれない。
一方米国はこういったカルチャーに親和性があるんですよね。一例として、米国は自分の身を自身で守るために銃を持つという文化がある。銃規制の賛否は別としても、個人的に「ビットコインのセルフカストディー」と「米国の銃文化」というのは似ている部分があると感じます。トランプ政権が推進し、規制緩和が進んでいるという環境要因もありますが、そもそもの国民性として個人の権利を重視することと、そこに投資リテラシーの高さが合わさって、米国ではビットコインへの理解と普及が進んでいるのだと思うんです。
日本では自分自身の自由を守る権利についての発想や議論が、そもそもあまりない。だからビットコインの必要性も感じにくいのかもしれない。
設楽:最近はそうとも言い切れないですが、確かに日本はそれなりに豊かだし平和だった。だから平和ボケというか、その辺りの個人の権利とか、政府を信頼しすぎるリスクみたいなのを感じづらいんではないかと思います。
このような話をしていて思い出すのが、僕の祖父世代の、日本の戦中の金属類回収令の話なんですよ。当時日本で、戦局の悪化に伴う金属資源の不足を補うため、国民から広く金属を回収することを目的とした法令がありました。実際、僕の祖父はこの時に家にあった古銭とかを没収されたみたいなんですよね、子供の頃よく聞いた話です。さらに歴史を紐解けば戦争終結後には預金封鎖、高所得者にとっては事実上の財産没収ともいえる財産税なども導入されました。
政府が国民の財産を奪った、これはまだ100年経っていないけれど、ここ日本で実際に起こった話です。それに現在でも、例えば銀行に預けたお金は1000万円までしか保証されないわけです。

東:若い世代になっていけば行くほど、そういう実感がなくなっていくでしょうね。そんなことは起きないだろうと思ってしまう。でもこれから100%そんなことが起きないとは誰も言えないはずです。むしろ現在の世界情勢において、その可能性は残念ながら上がってきているし、インフレは進んでいくでしょう。これから、少しは日本でも自分の権利や資産を自分で守るという意識が高まっていくのではと思っています。
僕たちに責任はないのか?
設楽:ここまでビットコインが日本で普及しない、複数の理由を挙げてきましたが、この機会に考えたいのが「僕たちも悪いのはないか?」という点です。僕も数年ビットコインやブロックチェーンについてメディアや個人活動を通じて発信してきた。東さんも情報発信や事業を展開してきた。それらのアクションが力不足だったのでは? この領域に入りたいと多くの人に思わせられなかったのは、僕たちにも原因があるのでは?と自戒を込めて感じています。
東:それはあると思っています。ただ難しいポイントもある。長年僕はこの領域にいますけど、例えば10年ぐらい前からこの領域にいる人って、褒め言葉でもありますが、いわゆる変わった人、尖った人ばっかりだったわけです。
一般的な人と違った感覚を持った人じゃないと、初期から入って来れなかった。そういう人たちって社会の中ではマイノリティで、だからこそビットコインの技術や思想に興味を持って、早くからその価値に気が付いたんです。ただその人たちって私も含めマニアックで、平たくいうとマス受けしないですよ。
そういう人たちがマス向けに発信する努力をすべきという指摘は理解できますが、必ずしも適材適所ではないですし、間違った表現をすべきではない。そこに課題があると感じています。

日本に希望はあるのか?
設楽:ここまで挙げてた要因はすぐには変わらないものが多いので、少しネガティブな気持ちになってきました。一方、東さんは現状、日本においてポジティブに感じていることはありますか?
東:そうですね。日本ではビットコインの普及は遅れていると思いますが、同時に追い風もこの数年で増えてきているように感じています。
先ほど米国と比較しての日本の国民性の話をしましたが、実際コロナ後の円安やインフレーションで、円などの法定通貨に対する問題意識が以前より強くなってきていることは、大きな変化の兆しだと思っています。
また、去年アメリカではじまったビットコイン現物ETF(上場投資信託)や、トランプ政権のビットコインへの積極的な姿勢の影響も大きく、日本企業からもビットコインへの関心や信任が増してきており、日本企業にとってもビットコインは無視できない存在になってきています。
さらに個人的に注目している点として、特に今年から海外の著名ビットコイン企業の日本市場への注目や本格参入が加速しているのを感じます。私が日本におけるブランドアンバサダーも務めているので手前味噌ではありますが、今年ビットコインインフラ開発企業であるBlockstreamが日本で本格的に営業を開始しました。他にも海外企業から日本市場への注目が増しているのを肌で感じています。
このような追い風を利用して、日本でもビットコインの普及が進んでくれればいいと思っています。
(後編に続く)
関連リンク
- 東晃慈氏 X
- ビットコイナー反省会
- Diamond Hands
取材/編集:設楽悠介(あたらしい経済)
写真:森川亮太
取材場所:TOKYO BITCOIN BASE













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